退蔵院方丈襖絵プロジェクト Taizo-in Hojo Fusuma-e Painting Project

【2014年の歩み:②:5月後半の2週間】

投稿:絵師・村林由貴

5月17日。
私はまだ画法の進め方も見出せぬままに、また一週間坐禅修行に静岡へと向かいました。

そこには、4月にお寺に入られたばかりの新頭さんの姿があり、期間中には何度も先輩方に怒られながら、必死に走り回り、お経を力いっぱいに詠み、坐禅と坐禅の合間には痛くしびれる足をほぐして、懸命に取り組む姿がありました。

ご指導なさっておられた先輩方のお一人に、3年前私が初めて修行に来た当時に新頭さんで、怒られる姿も度々に見た雲水さんがいらっしゃいます。今回の指導中の厳しさの反面、一週間を終えて他の参加者や私が帰る時には、穏やかに優しく、そして深々とご挨拶くださる姿とその一礼に、いかに修行に努めておられるかを感じました。3年前とは、顔つきも風格も別の方のようでした。

帰る前に、典座さん(お食事を担当する雲水さん)へご挨拶をしに伺った時のこと。

「老師さまの背中を見て、毎日ほんとうに、うっとりしてしまいます。」
典座さんが、柔らかな口調でそうおっしゃいました。

その一言には、老子さまがいかに素晴らしい方なのかも、雲水さんがいかに老子さまに敬仰なさってらっしゃるかも、4年間毎日そう感じてご修行されてきている雲水さんの尊さも…、全てが含まれているように感じました。

私は改めて、今の自分に繋いでくださった様々の仏縁に、幸福が身体中に染み渡るのを感じずにはいられませんでした。

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一週間の修行を終えた私は、静岡から東京に向かいました。
そして翌日、東京から船で片道約25時間かけて小笠原諸島の父島へ到着し、
更に船で2時間半かけて母島へと向かいました。
こちらも、退蔵院さんを通じてご縁があってのことでした。

島にはたった3泊といった短い滞在期間でしたが、そこで出会った島の方々のぬくもりや自然の姿、そのひと時ひと時が鮮明に記憶してます。

失われそうになっている母島固有種の植物や生物。
それらを必死に守ろうと努める島の方々。

自然と人との関係とは互いに、ほんの少しの行いやバランスの変化によって、守り合うことも時に危機に陥れてしまうこともあると、改めて教わりました。

一週間に一度しか母島に到着しない貨物船。
届くものの種類も数も自然と限られてきます。

「ひとつのアイスを友達と分け合って、おいしいんです。」
「パンも貴重でね。一人で買い占めちゃぁ、ねぇ…。(笑)」
「母島には床屋さんがないんですよ。△△先生、だれに切ってもらった?」
「僕は○○さんです」「あ、僕も!(笑)。あの人上手だよね~。」
笑いながらそんな風にお話してくださる島の方々に、私の心はぽかぽかになりました。

二日目には母島にある唯一の中学校、全学年合わせて9名の生徒さんたちと、触れ合う機会をいただきました。真っ直ぐな瞳で私の話を聞いてくれる姿も、「今度はわたしたちが…」と、生徒さんたち自らが自分の ” 大切なもの ” について一人ずつお話してくれたのも、フラダンスやウクレレを贈ってくれたのも、感極まる思いでした。
彼女たちにこんなにも懸命に、心から言葉や身体を通して表現を届けてもらって…。私が教わることばかりでした。
またいつか会えた時には、かっこいい姉さんになれてるように頑張らなきゃと思いました。

真っ青な空と海。緑豊かに輝く母島の風景。

…と思い描いていましたが、滞在期間は梅雨の時期で大体が霧と曇り空で…。
母島の山を登っても登っても、絶景スポットのはずの眺めはどこも殆ど真っ白でした。

けれどその幽玄たる景色や、山の木々が水滴るように潤う姿は水墨画の情景を想起させました。

その様にして5月中旬から2週間は、一旦京都で絵を描くことから離れ、
静岡と母島で過ごさせていただいた日々が、私に多くの栄養と力を与えてくださったのでした。

 

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