退蔵院方丈襖絵プロジェクト Taizo-in Hojo Fusuma-e Painting Project

第二回 墨研修

2011年8月5日(金)株式会社墨運堂

2011 年8/5 ㈮、再度墨の選定のため、株式会社墨運堂へ出向きました。今回は百選墨の中で少なくとも製造から20 年以上は経過している50 番台以前の百選墨を中心に試墨をしてもらいました。50 番台以前を使用してもらった経緯としては、墨は製造からおおよそ20 年経過したものを『古墨』として呼ばれ、20 年経た墨は内に含まれる膠の加水分解が適度に進み、色味が安定し、濃墨、淡墨共に幅広く使用できる状態であるためです。


前回お借りした墨を使用しての感想を踏まえ、どのような墨が良いか話しあう絵師村林由貴、松井孝成専務。

百選墨の色見本を並べ、使用する墨を検討する絵師村林由貴。

本番の鳥の子弐号紙に近い練習用の新鳥の子紙に色試しをする、絵師村林由貴。

今回作成した色見本。第一回、二回と様々な墨を試墨した結果、使用する墨はNo.15 天心、No.39 喜上眉梢、No.40三網五常、No.44 吉報春光を使用することに決定しました。

試墨


No.5 説夢 純植物性生松松煙墨( 昭和46,48 年造)…体質的には炭素粒子を細かくし、柔らかい感じの中に一寸硬さを取り入れ、澄の中に濁りを増して調和させ墨色の強さとなし、特に艶っぽさを加味してこの墨独特の個性を作る。
原料は純植物性松煙の最高品を使用し色彩的には赤紫系の複雑な美しい艶っぽい墨色です。此の松煙はすでに製造は中止されていますから、多分まぼろしの墨色になると思います。

No.15 天心 淡墨向の墨 鉱物性油煙( 昭和49 年製造)…体質的には炭素粒子を最大限に分散させ、柔らかい感じを作り、芯を美しく地味に、滲みを明るく派手に落ち着いた美しさを目的に造りました。一寸弱々しいという感じもしなくもないですが、年を経て古くなるにつれて、洗練された美しい墨色になると思います。淡墨向の墨で体質的にそれ以上上品な澄んで美しい地味な暢の良い墨は、蒼堂墨・天心・霊華以外色彩的には今後2~3 種造る一連の墨以外にありません。淡墨の場合、赤茶系の中で粒子の最も細かい炭素で、白光を帯び、赤みのある上品な墨色、濃墨の白光を帯びた上品な赤み掛かった黒ですが、それなりに量感を持たせてあります。

No.16 霊華 淡墨向の墨 純植物性油煙墨( 菜種油) 昭和49年製造…体質的には炭素粒子を最大限に分散させ、柔らかい感じを作り、芯を美しく地味に、滲みを明るく派手に落ち着いた美しさを目的に造りました。一寸弱々しいという感じもしなくもないですが、年を経て古くなるにつれて、洗練された美しい墨色になると思います。淡墨向の墨で体質的にそれ以上上品な澄んで美しい地味な暢の良い墨は、蒼堂墨・天心・霊華以外色彩的には今後2~3 種造る一連の墨以外にありません。色彩的に淡墨の場合赤茶紫系で、粒子の細かい炭素で、白光を帯びた黒に薄茶色掛かった上品な墨色、濃墨の場合白光を帯びた上品な稍々赤茶紫系の墨色で量感を持たせてあります。主として淡墨用の墨ですが、古くなるにつれて濃淡両用にご使用できます。

No.26 石渠捜玄 純植物性油煙墨 棉実油( 昭和52造)…体質的には炭素粒子をよく分散させ、柔らかさの中に地味さを残し、透明度のある澄んだそして、落ち着いた感じにしてあります。その上で、赤みを加え墨色の温かみとなし、白光を帯びさせて墨色の品位にしてあります。色彩的には赤茶紫系の複雑な墨色です。濃、中、淡墨どの濃度でも使用して戴けます。

No:28 太陽精 純植物性油煙墨 菜種油( 昭和53 年造)…体質的には炭素粒子をより最高度に細かく分散を良くし、芯を地味ながらもやや美しく滲みを明るく、澄と濁りを美しく調和させ、より透明度を持たせてあります。尚、赤みを加えて墨色の温かみとし、白光を帯びさせて品位としてあります。全体として透明度があり、澄んで艶っぽく、明るく造ってあります。年月を経過するにつれ、この体質の特長が出てくることと思います。色彩的には赤茶紫系の複雑な墨色です。濃、中、淡墨、どの濃度でも使用して戴けますが、特にこの墨の特長は淡墨の方が美しい。

No.29 臨地草聖 淡墨向の墨 純植物性松煙墨( 昭和53 年造)…体質的には炭素粒子を最大限に分散させ、全体的に柔らかい感じに、そして芯を美しく地味に、滲みを明るく派手に、透明度のある落ち着いた美しさを目標に造ってあります。尚その上に白光を帯びさて品位とし、赤みを加えて温かみとしてあります。年月が経過する程この墨と特長が出てくることと思います。色彩的には地味な複雑な青墨。淡墨向の墨で特長は、淡墨にする程地味で、白光の帯びた赤みのある温かい上品な青墨です。蒼堂墨と同系で、多彩的で地味な、体質的に派手で上品な青墨です。

No.34 清響 純植物性油煙墨 ヤシ油 ( 昭和56 年造)…体質的には炭素粒子を最高度に細かく分散を良くし、芯を地味ながらや、美しく滲みを明るく、澄と濁りを美しく調和させ、全体的に透明度を持たせてあります。尚、白光を帯びさせて墨色の品位とし、赤みを加えて温かみとしてあります。
年月を経過する程、この墨の特長が出てくることと思います。色彩的には赤茶系の複雑な黒。色々とある植物性油煙墨の中でも特に赤渋茶系の色彩に富んでいます。濃、中、淡墨どの濃度でも使用できますが、特に濃、淡墨に特徴が出て美しい。

No.39 喜上眉梢 純植物性油煙墨 ヒマシ油( 昭和55 年造)…体質的には炭素粒子を最大限に分散させ、美しい感じの中にキリッとした力強さを持たせ、全体的に澄んだ墨色で、澄みと濁りを調和させてあります。
立体感は芯と滲みの分離で出してあります。
尚、白光を帯びさせ、赤みを加えて墨色の品位、温かみを出してあります。
年月が経過し、墨が枯れるに従い変化してゆくこと思います。特に濃墨、超淡墨の両極端に於いて顕著な特色を発揮するよう考えてあります。

No.40 三網五常 純植物性松煙墨 ( 昭和56 年造)…体質的には炭素粒子を最大限に分散させ、芯は地味に、
力強さを持たせ、滲みは明るく派手に、全体的に透明度のある落ちついた美しさを目標に造ってあります。
尚、その上に白光を帯びさせ、赤みを加えて、墨色の品位と温かみを出してあります。年月が経過するに従い、この墨の特長が出てくることと思います。
色彩的には、明るい濁りのある地味な、白光を帯びた、赤みのあるやや強い感じの青墨。

(編:青木芳昭 著:岩泉慧)

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